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松江地方裁判所 昭和33年(わ)30号 判決

被告人 河在祚 外九名

主文

被告人河在祚を懲役八月に、

被告人金在吉及び同鄭竜[王其]をいずれも懲役四月に、

被告人金容祚、同許道仲、同河瑛九、同李京八及び同李圭栢をいずれも懲役三月に、

被告人申鉱出及び同朴述竜をいずれも懲役二月に、

各処する。

被告人河在祚に対し、未決勾留日数全部を、他の被告人等に対し未決勾留日数中、右各本刑に満つるまで、これを算入する。

押収に係る漁船「大興号」、偽造出港免状一通(証第二号)及び偽造船員手帳一〇冊(証第五号の一乃至一〇)は、いずれもこれを没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人等は、いずれも韓国人であるが、被告人河在祚及び同金在吉は、かねてから同志数名と相謀り、韓国から天草等を本邦に運搬輸入し、更に、本邦に於いて購入せる衣類、雑貨品等を韓国に持帰り、以て巨利を博さんことを企てていたところ、昭和三三年四月一〇日頃、韓国九竜浦港に於いて、金在吉がかねてから眤懇の間柄の徐千石に事情を打明け、同人からその所有の漁船「大興号」(総屯数八・一八屯)を賃借した上、河在祚が船長、金在吉が事務長として乗組む外、従前から「大興号」の船員であつた被告人金容祚が機関長、同じく被告人許道仲が甲板長として乗組むこととし、密航のための偽造の船員手帳及び出港免状を入手し、且、天草等の積載の完了次第出航すべく、これが準備に狂奔し、遂に、同月一八日午後八時頃、九竜浦港を出港するに至つたが、

第一、被告人河瑛九、同鄭竜[王其]、同李京八、同李圭栢、同申鉱出及び同朴述竜は、かねてから本邦に居住する近親者を訪問し、或いは、本邦に於いて購入せる物資を韓国に持帰らんがため、密航船に便乗する機会を狙つていたところ、前記の如く、昭和三三年四月一八日午後八時頃、「大興号」が韓国九竜浦港を出港した際、いずれも有効な旅券又は乗員手帳を所持しないのに拘らず、船員という名目を以て、これに乗船し、同月二〇日午前六時頃、島根県浜田港に入港し、以て不法に本邦に入り、

第二、被告人河在祚、同金在吉、同金容祚及び同許道仲は共謀の上、いずれも有効な旅券又は乗員手帳を所持しないのに拘らず、前記の如く、「大興号」に乗組み、昭和三三年四月一八日午後八時頃、九竜浦港を出港し、次で、同月二〇日午前六時頃、浜田港に入港し、以て不法に本邦に入り、且、その際、相被告人河瑛九、同鄭竜[王其]、同李京八、同李圭栢、同申鉱出及び同朴述竜がいずれも有効な旅券又は乗員手帳を所持しない情を知りながら、前記第一記載の如く、船員という名目を以て、同人等を「大興号」に乗船せしめて同人等の不法入国の犯行を容易ならしめ、以てこれを幇助し、

たものである。

(証拠)(略)

(被告人河在祚の累犯となる前科)

被告人河在祚は、昭和二八年一二月一一日、松江地方裁判所において、出入国管理令違反の罪により、懲役六月に処せられ、当時右刑の執行を受け終つたものであつて、本件は、右刑の執行終了の日から五年内の犯行に係り、この事実は、法務事務官作成の指紋照会に対する回答書、判決謄本及び同被告人の当公判廷における供述により明らかである。

(法令の適用)

先ず、被告人河瑛九、同鄭竜[王其]、同李京八、同李圭栢、同申鉱出及び同朴述竜の判示第一の所為は、いずれも出入国管理令第三条、第七〇条第一号に該当するから、それぞれ所定刑中懲役刑を選択し、所定刑期範囲内において、被告人鄭竜[王其]を懲役四月に、被告人河瑛九、同李京八及び同李圭栢をいずれも懲役三月に、被告人申鉱出及び同朴述竜をいずれも懲役二月に各処する。次に、被告人河在祚、同金在吉、同金容祚及び同許道仲の判示第二の各所為のうち、不法入国の点は、いずれも出入国管理令第三条、第七〇条第一号、刑法第六〇条に、六個の不法入国幇助の点は、いずれも出入国管理令第三条、第七〇条第一号、刑法第六二条第一項、第六〇条に該当するところ、それぞれ所定刑中懲役刑を選択し、先ず、被告人河在祚には前示前科があるので、刑法第五六条第一項、第五七条によつて、同被告人の各罪につき、累犯の加重をなし、次に、同被告人等の各六個の出入国管理令違反幇助の罪の刑については、刑法第六三条、第六八条第三号により、法律上の減軽をなすべく、以上は、それぞれ刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条第一〇条に則り、各被告人につき、重い出入国管理令違反の罪の刑に法定の加重をなした刑期範囲内において、被告人河在祚を懲役八月に、被告人金在吉を懲役四月に、被告人金容祚及び同許道仲をいずれも懲役三月に各処し、刑法第二一条を適用し、被告人河在祚に対し未決勾留日数全部を他の被告人等に対し未決勾留日数中右各本刑に満つるまでこれを算入すべく、押収に係る本件漁船「大興号」は、本件犯行の用に供した船舶であつて、且、被告人金在吉の占有に係るものであることが明らかであるから、出入国管理令第七八条第一項によりこれを没収し、同じく偽造出港免状一通(証第二号)及び偽造船員手帳一〇冊(証第五号の一乃至一〇)は、いずれも本件犯行に供した物であつて、且、何人の所持も許さないものであるから、刑法第一九条第一項第二号、第二項により、いずれもこれを没収すべく、訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項但書を適用し、被告人等に対し、これが負担を命じない。

よつて、主文の通り判決する。

(裁判官 組原政男 西村哲夫 武波保男)

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